ディレクターズ・カンパニーによる制作で、1992年10月18日に放送された30分のドラマです見ているあいだじゅう、「ディレカンやなぁ~」とニヤニヤしてしまうこと、しきり。ものすごく、ヘン。そして面白いです。監督の君塚匠さんは、このあとピンク系のビデオ作品や、『おしまいの日』などを撮ってらっしゃいます。ある稀少盤レコードの貸し借りをめぐって友人を殺してしまった女子大生、依子さん。そのドーナッツ盤の魔力に取り憑かれた奇妙な音楽マニアたちに追い回されます。依子さんは、こういう映画の中で、ホントに水を得た魚のように輝きますね!たぶん、洞口依子さんの演じる役には、作り手も細かい人物設定などせず、カラッポにしてあるほうがいいのでしょうね。ここでも、この女子大生が友達が少なくて性格が悪いということくらいしか、描かれていない。この娘がたぶん抱えているであろう孤独感も、ちょっと手を伸ばせば指先が触れそうなくらいなのに、手を伸ばしてないですね。それでもいいのです。大事なレコードを持ち逃げした依子さんを血相変えて追いかける友人の女の子。 そのふたりが入り込む殺風景な路地。そこで運悪く友人を死なせてしまった依子さんが、死体に青いビニール・シートをかけてさっさと逃げるところ。この「感情のこもってないカッコよさ」は、一級品ですね。なにより、風景を着こなすような感覚が最高。私はTVに向かって拍手しちゃいました。レコードを手に入れた依子さんは、とにかくその曲をもう一度聴きたくてしょうがない。それで、電器屋でプレイヤーを買おうとするけど売ってなくて、レコード店(ウッドストック東京店って、あの心斎橋にあった店の?)でも店頭演奏を断られるばかりか、変なオーナー(岸野雄一さん!)に、「そのレコードはうちに置いていたもんだ。返せ!」と追いかけられる。飛び込んだ「冥曲喫茶」でようやくその曲をかけてもらえると、頭のおかしな音楽マニアがここにもいて、この曲にまつわる呪われたエピソードがここで明らかになります。この喫茶店の場面では、おそろしい話を聞きながら、依子さんの表情はちっとも戦かず、どちらかというと恍惚と輝く。この表情に見とれてしまいました。
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